2021年5月12日水曜日

Alphafold2の意味すること ~複雑なものを複雑なまま理解する~

生物学には、階層ギャップという問題がある。

分子、細胞、組織、個体、集団など様々階層の間にギャップがある。

その階層ギャップの実態をAlphafold2というAIが炙り出してくれた。


Alphafold2はタンパク質のアミノ酸一次配列から立体構造を予測してくれるAIで、かなりの精度を誇り、とても役に立つ。

この「アミノ酸一次配列」と「立体構造」が階層ギャップである。

「アミノ酸一次配列」が分かっていても「立体構造」を知るのはとても困難。従来は立体構造を知るためには、タンパク質の結晶解析など、かなりの労力と機材が必要。「アミノ酸一次配列」は遺伝情報から容易に算出されるので大量に蓄積されており、ギャップに対するストレスは溜まる一方だった。

しかし、「アミノ酸一次配列」と「立体構造」の間には、特別な物理法則はない。分子の特性、挙動もすべて物理法則で記述できる。それでも立体構造は人間の手には入らない。パラメータがあまりにも膨大すぎて計算ができないのだ。理解できているのに理解できないという状況。それが、階層ギャップの実体である。

階層ギャップを埋めても、新しい法則は手に入らない。汎用性のある法則を欲する科学者からすると挑みがいのないテーマ。しかし、もし「アミノ酸一次配列」から「立体構造」が簡単に類推できれば、得られるものは膨大である。タンパク質科学は新しい黄金時代を迎えるに違いない。つまり、新しい法則は手に入らないけれど、弱かった階層に新しい息吹が吹き込まれて、その階層で新しい発見が行われることになる。

Alphafold2のようなAIは膨大な時間を要する計算を大づかみに捉えてうまく近似解をだす。AIの行っている処理を人は理解できない。が、その事実にあまり意味はない。うまく近似解をだしてくれさえすれば、あとは人間はそれを利用して新しい科学を発展させることができる。理解ができない人間が科学の進歩の足かせになってはいけない。

階層ギャップは、あらゆるところに存在する。人が乗り越えれない暗黒の谷はありとあらゆるテーマに存在する。今後、AIを中心としたデータサイエンスがこの階層ギャップを埋めてくれるだろう。

これまで科学は複雑な対象を簡単な数式に抽象化してきたが、複雑さが度を超えたとき、複雑なものを複雑なまま理解する時代がきたのである。


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